北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

林修

林修

VOL15林修

結局、リアリティで追求しちゃうと矛盾とか、辻褄(つじつま)が合わない部分が出てくるんですよ。だから僕はフィクションとしての完成度が高いと言ってるんです。

──リアリティで行けば、ケンシロウとユリアがさっさと結婚してれば良かったとかですかね?

そうなっていれば、あそこまでの闘いになってないですからね。少し野暮なことを言うと、あの時代に革ジャンを破って、どこで買ってたんだとか直してたんだとか。そういうところにツッコミを入れたくなってくるじゃないですか。

──たしかに、ツッコミどころが満載ではありますね。

だから僕はフィクションとして見るんです。野暮なことを言わなくても納得できる完成度の高いフィクション作品であり、言葉やセリフが素敵でヒールが魅力的。そして主人公がどんどん強くなっていく。それこそ1巻のケンシロウのままでラオウとの最後の闘いをしたら、2秒で負けてたと思うんですよ。

──そういう意味では、最も成長した主人公かもしれませんね。

そう。哀しみをすべて自分で背負っていくじゃないですか。ラオウが知らなかった哀しみ、あとは愛。それを身につけ心に刻んで、あの究極の強さになっていったワケですから。

──逆に、当初は圧倒的に強かったラオウは、それを刻めなかった。最後の最後で、その差が出た…と。

結局ケンシロウが、なにをもって成長していったかですよね。単に闘って強くなったとか筋トレしたとかじゃないでしょ? 心の成長ですよ。

──ですね。まさに「哀しみは肉体を凌駕する」ということですよね。

でもね。ラオウはケンシロウが成長するのを待ってたんですよ。さっきの1巻の話じゃないけど、余裕で倒せる時期があったんだから。

──そうですね。黒王号から下りずに闘ったりしてましたもんね。

自分を倒してくれる敵を待ってたんですよ。そして自分より強くなった弟を見届けて、あのセリフが出た。

──我が生涯に……ですね。

彼自身、自分がやっている殺戮や恐怖による支配が適切と思っていたかどうか。仲間もユリアもいない。そういう孤独な“虚”の中で生きてきた自分が、最後の最後に、満ち満ちた弟の姿を見て生涯の幕を閉じる。

──ですね。あの最期のセリフには兄としての役目を果たしたという意味も込められていたのかもしれませんね。敵視していたけど、時代を担うのはこの男…我が弟だと。

そう。そうなんです。だから僕はラオウが好きですね。あの圧倒的な強さもそうだし、死に様もそうだし。

──ただ、講師としてはジュウザのようであり、使う言葉に関してはサウザーあたりも参考にしている。

我流は無型! 軟弱!! 脆弱!! 虚弱!! すなわち北斗イズムですね。

──ははは。今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。

いえいえ。僕も楽しかったです。

 

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剛掌波のごとき言葉の波状攻撃 北斗の血を引くパワフルさ
林先生は芸能人でもタレントでもないので、こういう表現をするのは変なのかもしれないが、まさにテレビで見たままの人。そういう印象。カメラや録音の準備といった「セッティング」の段階から北斗トークが大炸裂、慌ててボイスレコーダーの電源を入れさせてもらいました。こちらが聞き手であるにも関わらず、なんというか、ついつい黙って話を聞いてしまいたくなるような、そんな求心力を持った人、なによりパワフルな人でした。

読み方の違いは世代の違いか あるいは先生自身の中にある着眼点か
今回の語らいの中で強く感じたのは、北斗の拳という作品を「読む」のではなく「読解」のような視点で見ていたんだな…という部分。読み始めた年齢の違いもあるのかもしれないが、やがて予備校講師となるにふさわしい、独自の目線で北斗や多くのマンガを読まれていたんだなと。北斗の新たな読み方を教わったような気がしました。

Interviewer ガル憎
フリーライター。1974年1月4日、広島県に生まれる。北斗の”第一世代”とも称される生粋の団塊ジュニアかつ原作の公式親善大使で、広島東洋カープファン。原哲夫らとの交流も深く、映画「真救世主伝説 北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」のエンドロールにも名を刻む。好きなキャラクターは、トキ。