北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

武論尊

武論尊

VOL02武論尊

北斗が終わったあとに拳法マンガや格闘マンガ、いっぱい出たよね?

──拳法や格闘どころか、マンガ界の流れそのものが大きく変わりましたよね。北斗が無かったら、いまどうなっていたかも分かりません。

でも、そのほとんどはね、血を飛ばすとか目が飛び出るとか、単なる残酷なマンガにしかなってなくて。

──たしかに。どれだけ強烈に相手を倒すかとか、強いだとか、そういう暴力描写が増えましたね。

そうなんだよ。暴力描写だけをマネするなと。俺は「そこを取るんじゃない。盗むところが違うだろう!」って、ずっと思ってたから。

──主人公がいかにして勝つかではなく、主人公と対峙した相手、運命を共にした相手が、どう死ぬか。

そう。殺し方じゃないんだ。何度も言うけど、死に様なんだよね。そこを勘違いしていた作家たちは、いま、ほとんど残ってないでしょう。

──死に様が生き様になり、死に方がその人物の人生を物語る。先生の視点にあったものが、北斗の根底を大きく支えてたんですね。ぜんぜん違う角度で闘いを描いていて。漢たちの友情とか、そういう部分も。

うん。ただ、さすがにラオウが死んだ後、その翌週から続きを書かされるとは思わなかったけどね。

──あ~~~。なるほど。読み手としては苦笑いするしかありませんが、そうですね。そろそろ修羅…というか第2部。その話に入っていきたいところですね。

本来だったら何か月か休ませてくれるじゃない。でも休ませてくれないんだから。ラオウの最期を書いて原作を渡して「よっしゃあ!」と最高の達成感を味わった次の日に「あと4日で次の話を渡してください」だよ。これ、キツい話だぜ?(※6)

【※6】第2部の開始
多くのファンが「最終回」を覚悟したラオウの昇天だったが、当時の編集部の要請で翌週から第2部に突入。これには賛否両論があったが、北斗軍として成長したバットとリン、元斗皇拳のファルコなどの登場で、物語は新たなるステージへスムーズに突入。結果として、修羅の国、北斗琉拳など、北斗の歴史にさらなる深みが増した。

 

──逆に僕らもビックリしましたよ。ラオウの壮絶な最期、まだその余韻に浸ってる時に「次が始まったよ!」って。ある意味、僕たちの脳にも休む時間が欲しかった感はありますけど。これ以上の話があるのかよみたいな。それこそ、あしたのジョーの「真っ白に燃え尽きた」ですよね。

そうそう。もう必死だよ。書くためには自分の頭を根本的に変えなきゃいけないわけだから。

──考えに考えて次の展開を…いや。現実には、そこまで考える時間なんて無かったですよね(笑)。

無い無い。いままでと同じ、4日。ラオウの死後、4日で次の話だよ!

──結果、世の平安が逆に貧富の差を生む未来が生まれたという。

そう。数年後という設定で始めたよね。もちろんその数年間、ケンシロウは黒王号と長い旅を続けてる。いろんなことがあった。だから黒王号は片目を負傷したことにしよう。そこだけはイメージが強くあったね。

──うわ~。なるほど。空白の時間を黒王の負傷した目で表現したんですね。僕はこう、ケンシロウが黒王を乗りこなしてるというか、第1部より断然、信頼関係が生まれたように感じ取ったんですが、もしかするとそういう細かい描写から、気配で感じ取ったのかもしれませんよね。なんか「ケンシロウの馬になってる!」って思ったんですよ、当時(※7)。

【※7】ケンシロウと黒王号
ケンシロウが再登場する際に描かれた黒王号の「目の負傷」は、そこまでの壮絶な時間の経過を表した独特のアイデアで。物語のキーポイントになるセリフ、描写を入れるよう、第1部からつねに心掛けていた武論尊先生の真骨頂とも言える措置。このような細かな描写が随所に散りばめられているのも、北斗の拳が名作たる所以である。

でもね、明確に覚えてるのはそこぐらいしか無いのよ。当時「こうしよう!」と、ひらめいたものは。あとは全部、意図的に記憶から消した。

──消した…と言いますと?

強引に始めたお陰でストーリーが破綻してると思ったから、第2部で自分がなにを書いたかを完全に消した。だからそれ以降、インタビューで第2部のことを聞かれても「覚えてない」って言ってね。

──ええ。その話は有名ですね。先生にインタビューしても第2部は「知らぬ存ぜぬ」で答えてくれない。

頭から消してるからね。バタバタして、本当に苦労したイメージしか無かったから、見るのも嫌だったんだよ。対談で「カイオウは」とか言われても「カイオウって誰や?」って、こっちが聞いてたくらいだから。

──ははは。カイオウはラオウのお兄さん。実兄です。リンの前で手を広げ「悪!」と叫んだ人です。

そうそう。でも読む前までは「ラオウの兄? そんなのいた?」だよ。

──それがスゴいですよね。普通は記憶には残るはずだけど、とにかく頭から消し去るというのが。

だけど今回、第2部を改めて読んだでしょ? 俺ってスゲぇわと思ったの。上手くまとめてるな~って。

──はははははは!

ビックリしたよ~ホント。