──それでは、もう少し具体的にと言いますか…。断末魔のお話をさせていただければと思うのですが。
断末魔。もう、どれだけやったか分からないくらいやりましたからね。
──以前「アメトーーク!」で北斗の拳芸人をやった時、千葉さんというか断末魔特集のようなものがありましたよね。ふたりのザコが「金が……ねぇ~~!!」って順番に言うだとかゴッホの名前を叫ぶだとか。
ありましたね。
──ちょっと失礼な聞き方になるかもしれませんが、先ほど言われたザコへの想いと、そういう言葉遊び的な部分の融合性というか、そこをどう解釈していけばいいのかなと。
なるほど。あれはね、まず「断末魔はお好きに」という前提があったら、なにを言わせるか考えて、思いついたら紙に書くんですよ。たとえば「レバニラ炒めライス」ってのもあったと思うんですけどね。
──あはは。あれは数ある断末魔の中でも最上級に入る部類ですよね。
まず、その言葉自体は遊び心から生まれるものなんです。でも、ひとりで言わずに大人数で分担する。たとえばレバニラを「レ」と「バニラ」で分けるだとか「いた」と「め」とか。
──あ~。つながるとレバニラ炒めライスだけど、順番に言う。
そうするとね、最初の「レ」を言ったザコは「礼を言わなきゃ」と言いたかったかもしれない。ここまで育ててくれた両親に礼をね。でも「レ」のところで死んじゃったと。
──あ~! なるほど!!
次のザコは「バニラアイスが食べたかった~」と最後に好物を言ったかもしれないんだけど「バニラ!」のところで爆発しちゃったとか。
──おおおおお! なんだか興奮してきました。面白いです、それ!
だって、それを10人で言うなら、その10人それぞれが放つ人生最後の言葉なわけでしょ? 最後の「ス」だってもしかしたら「すまなかった」と家族に詫びて死んだのかもしれない。
──いや~。まさか、あの断末魔にそういう裏話があったとは。僕なんかは小学生だったんで、聞いて「なんでレバニラ炒めライスなんだよ」って笑ってたんですよ。そんなこと言うわけないだろって。ただ10人でひとつの変な言葉を言ってる…的な。
そうじゃないんですよ。あとは、せめてそういう風に考えてあげようっていう愛情というかね。でないとあまりにも可哀想なんです。さっきも同じ話が出ましたけど、台本を見たら盗賊AとかBとか、名前すら無いんですよね。名前すら無いのにメインキャラクターに殺される。こんな可哀想なことがあるかと。
──名前があるメインキャラクターは颯爽と去っていくのに…ですね。
そう。だから、太郎でも二郎でもいいから名前を付けたいって。たとえば関ヶ原の戦いでも、前線で戦うのはお百姓さんじゃないですか。お百姓さんにも名前はあるでしょ?
──つまり、どんな登場人物であろうと人間、ひとりの人間として見てあげたいということですね。
まずは闘いに負ける。さらに殺されるわけだから、なおさらね。
──う~ん。なんでしょう。千葉さんの話を聞いてると、原先生と重なる部分があるんですよね。
原先生と? 興味深いですね、それ。
──原先生も、ギャグ系の断末魔を意図的に考えていたと。それは拳法や殺し方の残虐性を薄めるためでもあるし、悪いヤツを倒した爽快感を抱かせるためでもあると(※6)。
【※6】
民衆に悪行の限りを尽くすザコ。そこに現れたケンシロウが、ザコの持っていたノコギリを使って仕返しをするシーンで数ある断末魔の中でも極めて印象深い「ぱっびっぶっぺっ…ぽお!」が誕生。冷静に考えれば極めて残忍な殺し方ではあるが、その残忍性を薄めると同時に、悪しき人間を倒す爽快感を演出する描写となった。
なるほど。残虐性を薄めるためという意味では似てますね、それこそレバニラ炒めライスなんかは特に。
──そう。そうなんです。あと、原先生は主人公クラスだろうがザコだろうが区別をして描いたことがほとんど無いと言われてました。むしろザコキャラの方に力を入れ、そこに自分のアイデアを盛り込んだと。
ラオウやケンシロウ、トキなんかは人物像が決まってるから?(※7)
【※7】
伝承者がケンシロウに決まった事を激怒したジャギ。それを二人の兄に伝えるシーンで
ラオウ、トキのシルエットが初めて描かれた。これは武論尊先生の原作にあったもので、後に登場する際にも、このシルエットを忠実に再現した二人が描かれた。このように、主要キャラクターの特徴は原作段階で指示されることが多いのだ。
──ええ。それもあります。ザコだからといって、すぐ殺されるからといって手を抜かない。そういう想いで描かれていたからこそ僕らの中で印象的な…たとえば「汚物は消毒だあ~っ!!」って言うザコとか、記憶に残る連中が多いんですよね(※8)。
【※8】
記念すべきサウザーの初登場シーン。その先頭に立っていたモヒカン+キャッツアイ(サングラス)のザコが火炎放射器を民衆に浴びせながら放った名ゼリフ。大ヒットした「パチスロ北斗の拳」で採用されたキャラというのもあるが、ファンの間ではトップクラスに入るほど印象深いザコだ。ザコだけで熱く語れるのも北斗の魅力。