ただね。ラオウという最強の漢、拳王に対し、意地のひと太刀を浴びせようとするところは最高(※2)。
【※2】
雲のように自由に、誰にも縛られなかったジュウザ。しかし南斗最後の将がユリアであることを知り、その身と命を捧げることを決意。ラオウに闘いを挑むも劣勢となり死を覚悟したジュウザは、執念でラオウの腕を取りに行く。秘孔を突かれながら最後まで将の名を明かさなかった死に様は「敵ながら見事」とラオウに言わしめた。
──冥土の土産に腕を一本もらっていくぞ!
そう。俺はタダじゃ倒れないんだというあの姿勢というか。
──いま流れでヒューイとシュレンの名前を挙げましたけど、彼らは討ち死に覚悟みたいなところがあったと思うんですよね。負け戦であることは分かってるというか。ただ、ジュウザは少し違って、負け戦になるかもしれないけど討ち死にはしない。
まさにひと太刀。勝てなくても、必ず相手に傷を負わせるぞという。
──そうですね。命を取れないなら腕一本でどうだ。ある種の潔さも。
そして、そこから黒王号をパクっちゃうというね(※3)。
【※3】
ラオウとの初対峙。ジュウザの拳に一辺の曇りもないことを悟ったラオウは「おれも馬から降りねばなるまい」と真っ向勝負を受け入れる。しかしジュウザは闘いの途中で黒王号に飛び乗り、罠を仕掛け追っ手を遮断。ラオウを「これが雲のジュウザの生き方よ!!」と挑発し、ラオウの足を奪い去った。ジュウザの真骨頂だ。
──そこ! そこです! 相手を翻弄させ、感情を逆撫でする。
ああやって強い者を巧妙に翻弄するあたりがね。あれ、黒王号をも翻弄してますからね。カッコイイなあ。
──痛快というか。ラオウにおしりペンペンとかやるじゃないですか。
うん。やってることが前田慶次なんだよね、傾奇者の感じ。芸人もどこか傾いてるワケですから、そういうところに憧れるっていうのが出てきちゃうのかもしれないなあ。
──それまで読んでて、ラオウにおしりペンペンとか、そういう行動をするキャラなんて絶対にいなかったじゃないですか。意外性と痛快さを兼ね備えたカッコ良さですよね。
そう。ちょっと怖い先輩のことをイジるみたいな感覚ですね。
──芸人の世界でいうと誰になるんですかね?
誰とは言いづらいですね。怖さや圧力だったら、う~ん…。やっぱり浜田さんになるんですかねえ。
──はははは! 浜田さんにおしりペンペンしながら逃げる。
いや~。想像しただけで、なかなかの怖さがありますね。わははは!
──まあ、天野さんの今後の人生もありますから、とりあえず、どこの浜田さんなのかというのは特定しないでおきますね。
そうですね。僕もまだこの世界で生きていきたいので。
──分かりました(笑)。ただ、ジュウザは本当に多くの人が、下手したら全員が挙げてるかもしれません。
それは、この対談企画で?
──ええ。やっぱりこう、男の憧れという部分は強いですよね。
無いものねだりじゃないけど、北斗の漢たちみたいに生きたいけど生きられない。おそらく世の中の9割がそういう人たちですよ、僕も含め。
──そうですね。分かります。
北斗の拳は「こうありたい」という漢たちを具現化してくれてて、しかも様々な漢の形がある。たとえばラオウみたいに強さだけを徹底的に追及するとか、あれは理想ですよ。だって子供のころとか、ケンカが強い=無条件でカッコいいみたいなところがあったじゃないですか。
──ありましたね。まず最初に触れるカッコ良さがそこ…みたいな。
ただ、それだけじゃ生きていくのに不都合だという感じで、普通の人はそこからいろんな鎧を着ていくようになる。ふと気づいたら、小さくまとまった大人になってたとかね。
──あ~。なるほど。どこかを曲げないといけない、あえて我慢しないといけない。大人になって「あの時はあんな夢を持ってたなあ」…とか。
そう。そういった意味で言うと、むき出しの漢たちが山ほどいるマンガですからね、北斗の拳は。ジュウザなんて現代で言えばチャラ男。だけどそう見られてないということは…。
──表面を覆ってるチャラさ、印象の大半を占めているチャラさ。その奥にあるものが、見る側に伝わってるということですよね。
まさに、そうなりますよね。