──ご自身だとどうですか?
そうですねえ。僕はラリアットとかじゃなくて、細かい技術とか飛び技が中心なんですよね。
──ストロングスタイルではなくオールドスタイル…ですね?
ええ。だから、いつか“剛の拳”を出したいなと思ってるんですよね。
──おお! まるでラオウに挑んだトキのように!
そう。そうです。僕はどちらかと言うと柔の拳なんで、あの秘孔…(と言いながら内股を突くポーズ)。
──刹活孔!(※9)
【※9】刹活孔(せっかっこう)
両足の内股あたりにある秘孔で、ここを突くと一時的に剛力、剛拳を得ることができるのだが、それと同時に己の命さえ奪う可能性もあるといわれる決死の秘孔。兄であるラオウに挑むため、柔の拳の使い手であるトキが使用。その想いがラオウの涙を誘った。
刹活孔! ガッと突いて、いつもは柔の拳なのに、急に剛の拳を使う。
──それ、最高ですよ! たとえば試合で刹活孔を突くポーズをしたら剛の拳に切り替えるサイン!
いいですねえ。掟破りの剛の拳!
──あははは! 藤波が長州にやった掟破りの逆サソリ(※10)。掟破りシリーズ最新作! お~っと棚橋、ここで刹活孔を突くポーズ! 掟破りの剛の拳が出るのか! アナウンサーがそんな感じで実況して。
【※10】掟破りの逆サソリ
プロレスブームの1980年代前半、ライバル関係にあった藤波辰爾と長州力の試合で、藤波が長州の得意技であるサソリ固めを仕掛け、実況で「掟破りの逆サソリ」と言われたことから一気に広まった。相手のお株を奪うという意味合いで以降もプロレスで使われるキーワードとなる。
ええ。ただ原作だと、あと少しのところでラオウに負けますけど。
──いやいや。そこはこの際、スルーしちゃいましょう。棚橋は刹活孔を突いても無事だし勝つんです!
ははは。ありがとうございます。
──いや~。いつか実際にリング上で見てみたいです、それ。
面白そうですね。でも、いまは冗談みたいに話してますけど、なんて言うんですかね。普段いろんなことをメディアに話したり、試合後にコメントしたり。そういう中で北斗の拳や好きなマンガを読んだりするのって大事なんですよ、本当に。
──と言いますと?
魅せることが大事なんで、いろんなものをインプットする。今回の対談を前にして北斗を改めて読み返しましたけど、やっぱりいろんな言葉やエネルギーが入って来るんです。
──あ~なるほど。単に楽しく読むだけじゃなくて、インプットする。
登場人物の名言とか、なにかインプットできるものは無いか。そういう目線でも読んでますね。
──たしかにプロレスの場合、そういうものがリアルに生かせますね。
そうですね。僕は決め台詞で「愛してま~す!」と言うんですが、まさに北斗もそう。愛ゆえにとか、愛をとりもどせとか。読んでいてシンクロする部分があるんです。
──愛のために闘う。あるいは愛をもって闘う。なるほど。
あと、闘いという部分では……精神は肉体を凌駕するんですよ。
──おお! ラオウの「哀しみはこの肉体を凌駕するのか」的な!
だから、僕はよく「生まれてから疲れたことが無い」と言うんです。
──ええ。存じております。
身体が重たいことはあります。世間ではそれを疲れと言うのかもしれませんが、僕は認めません(笑)。
──それが棚橋さんですもんね。
疲れない秘訣とでも言うか、これは真剣な話で、使命感が疲労感を上回ってると身体は動き続けるんです。
──お~。なるほど。でも、ケンシロウもそうですよね。たとえば危機を迎えたシュウのもとにケンシロウが現れたのも伝承者の使命感。サウザーに敗れて傷を負ってたのに、シュウの叫びで蘇った。まさに精神が肉体を凌駕した瞬間だったし、使命感や宿命に導かれたシーンですね。
プロレスを盛り上げたいとか多くの人に知ってほしいとか、その使命感がある限り、僕は永久に疲れないし立ち止まりませんよ。
──いや~。心の底から素晴らしいと言わせてください。棚橋さんは内面的にはジュウザ、そして使命はケンシロウ。そんな感じですね。
そう言われると最高です。これからもプロレスのため、北斗のように愛を叫んで闘っていきますよ。
──お願いします。応援します!!
リアルな「闘い」の中に生きる漢 その思考こそが今回の見どころ
拳法家ではないがプロレスラー。ケンシロウたちと同様、闘いに身を捧げる「漢」との対談。原作寄り、北斗寄りの話に加え、今回は意図的に棚橋氏のプロレス論などを入れさせてもらった。それは新日本プロレスのエースと言われ、その自覚を持って生き、プロレスラーとしての自分をつねに見つめている姿が、ある意味ではプロレス界にとっての救世主、ケンシロウに通ずるヒーロー像のようなものに思えたから。自らを
かつて抱いたプロレスへの想い それを再燃させてくれたことに感謝
小学生時代、死ぬほど憧れたプロレスラー。棚橋氏は年下だが、そういう次元ではなく、目の前にプロレスラーが、新日のエースと呼ばれる人物がいるという現実が、心の隅に潜んでいたプロレスDNAを再起動させた。今回の対談で自分のプロレス熱が再燃したのだ。感謝としか言えない。

Interviewer ガル憎
フリーライター。1974年1月4日、広島県に生まれる。北斗の”第一世代”とも称される生粋の団塊ジュニアかつ原作の公式親善大使で、広島東洋カープファン。原哲夫らとの交流も深く、映画「真救世主伝説 北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」のエンドロールにも名を刻む。好きなキャラクターは、トキ。