北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

棚橋弘至

棚橋弘至

VOL08棚橋弘至

──それでは、話をもう少し掘り下げます。ビジュアル的なイメージなどを抜いて考えた北斗。それは棚橋さんにとってどんなものですか?

北斗の拳。その根底に流れてるものの中に、人のために動く、自己犠牲の精神があると思うんです。みんながケンシロウを支えたりして。

──レイはマミヤのために闘い、アインは娘のために闘う。漢たちの生き様に自己犠牲の精神があると。

ええ。そこが、いちばんグッと来るんですよね。自分は苦労せずに楽な思いをしたい人が多い時代。自己犠牲の精神に、すごく惹かれます。

──誰か。なにか。あるいは未来。そういうもののために身を投じる。

実際、新日本プロレスも危ない時期があったんです。でも、これからもずっと残ってほしいし、俺が新日本プロレスの礎になってもいいから、若い子がプロレスラーを目指す、目指したい場所にしようと頑張って。

──過去のインタビューで拝見したんですが、すでにプロレスのファンである人よりも、まだ興味を持ってない人を引き込みたい。そんなことを言われてましたよね?

そうですね。プロレスファンだけを対象にしていたら、それぞれの団体でそのファンを取り合うだけになるから発展が無いんですよね。パフォーマンスもそうですが、バラエティ番組への出演なども含め、プロレスの普及活動というものを意識してやってます。自己犠牲とまでは言えないかもしれませんが、考え方としては似てる部分があるんですよ。

──僕は39歳、棚橋さんは37歳。小学生のころは、いわゆるプロレス黄金時代じゃないですか。初代タイガーマスク(※6)に憧れて、スター選手が数えきれないほどいて。

【※6】初代タイガーマスク
1981年4月、ゴールデンタイムに試合がオンエアされていたプロレス黄金時代に衝撃的デビューを飾った初代タイガーマスク。軽快な身のこなしから繰り出される空中殺法が人気を博し、プロレスブームを不動のものにした。マスクマンブームを巻き起こし、日本中の少年たちの目を輝かせた、まさしく現世のスーパーヒーロー。

僕もです。あれはもう、本当にスゴい時代でしたからね。

──でも、しばらくしてプロレスから離れて、見なくなったんです。でも深夜にやってると、つい見てしまう。

そうですね。そういう方は割と多いんですよね。特に僕たちの世代は。

──そんな中で、やっぱり棚橋さんのことは知ってたし顔と名前も重なるんですよ。それはつまり、棚橋さんの考え方やアプローチが、エラそうな意味ではなくて、自然と自分に響いたり届いたりしてたんだなと。

ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。

──この企画も似てて、次の世代に北斗を伝承したいというか、残したいという想いでやってるんです。

いや~。北斗の拳は絶対に残さないといけませんよ!

──ですよね。そういう意味では互いに伝承させる身というか、棚橋さんはプロレスを、僕は北斗の拳を後世に残すと同時に、人気も伴ったものにしたい。宿命ですね、これは。

草食系男子がいいとか言われる時代ですよね。でも、プロレスや北斗はゴリゴリじゃないですか。もし、いまが乱世だったらと考えると、草食系男子は生き残れませんからね。まあ僕は間違いなく生き残りますけど。

──なんか映像が浮かびます。乱世の荒野に堂々と立つ棚橋さんが。

実際にそうなったら、誰かのために生きたいですね。たとえば、コレ(小指を立てながら)のためとか。

──アイン風! いいですね~。ちなみに誰に、というか、どんな格好をしたいとかあります? 棚橋さんって綺麗なストレートヘアのイメージがあるんで、僕は最初、シンのような雰囲気を感じてたんですが。

あ~。なるほど。女を両脇に従えて裸で立ってる(※7)。いいですね。

【※7】
当連載の第一回目、武論尊先生との対談時にも紹介したシンの初登場シーン。宝塚の男役や歌舞伎といった様式美をイメージに備え、原作の「両脇に女を従えた筋肉美」を原先生が膨らませて描いたのが、この全裸のシン。劇画タッチのマンガが少なかった当時のジャンプや少年誌の読者には、あまりにもインパクトの大きいシーンだ。

──ただ、キャラクター性という部分になると、ユダかなと。おネエとかそういう意味じゃなくて、自分の中に圧倒的な美意識がある。鏡の前でポーズを決めながら、鍛え上げた自らの肉体を眺めたり。闘いの中に、自分の魅せ方も見出すような。

あ~。ユダ的な面はあるかもしれませんねえ。オカダのドロップキックに目を奪われてみたり(笑)。

──あはは! オカダ(※8)。別に僕はそういう意味で言ったんじゃないですよ。ナルシズムとか、そういう部分に共通点があるなと。あと自らの強さに胸を張るという意味ではサウザー的でもあるのかなと。

【※8】オカダ・カズチカ
新日本プロレス所属。2011年に武者修行を経て凱旋帰国。自らをレインメーカー(金の雨を降らせる男)と称するように。2012年に棚橋氏の保持するIWGPヘビー級王座に初挑戦し勝利を収めるが、3度目の防衛戦で棚橋氏と再戦を行い王座陥落。凱旋帰国後初の敗北を喫した。宿命のライバルと言える存在だ。

ユダの美意識とサウザーの強さ。いいとこ取りじゃないですか(笑)。