──名前はインスピレーションで決めていたんですよね?
シンは初期だったから本当にインスピレーションだけど、たとえばサウザーは南斗だから南(South)、ラオウは羅王でジャギは邪気。
──そして、儚(はかな)いという意味でトキは天然記念物のトキ…とか偉そうに続けましたが、じつはシュウとか知らないんですよね。
シュウ? あれは…たしか「優秀」から取ったのかな?
──おおおおお! 初耳です!
レイは麗しい。綺麗、華麗の「麗」の字からだよね。水鳥の舞いが美しい。
──でも、そういう数多くのキャラクターがいて、話が複雑で、僕は9才そこらで、よくこの話を理解していたなと思うんです。もちろん大人になっていくに従って「こういうことだったのか!」と分かるようになった部分も多いですが、むしろ、拳法のインパクトより登場人物に心を奪われた印象の方が強くて。
単純にね。弱い者は守らないといけないとか、いじめちゃダメとか、卑怯だとかは子供も分かるじゃない。何才に向けて書いてるかって、俺も分かってないからね。大人向けのようではあるんだけど、結局は全員だよね。
──そうですねえ。月曜日にジャンプが出るから急いで帰ってダッシュで読むんですけど、次の日に担任の先生が「サウザー強すぎじゃろ!」 とか言ってましたもん、朝礼で。でもその先生だって、考えたら20代とかだったわけですもんね。読みますよね。
なるほど。そういう意味で言えば、これは原哲夫にしか描けないマンガだろうね。まだ小学生だったガル憎君が話に入り込めたのも、彼が描いたからこそ。このストーリーに関しては原哲夫しかいないんじゃないかな。
──う~ん。深い言葉です…。
あとは感性だよね。原作依頼を受けて読み切りの北斗を読んで、絵を目にする。北斗神拳の面白さと「あんたもう死んでるよ(※7)」。あのフレーズに触発されたんだけど、もし絵が気に食わなかったら原作を断ってたかもしれないから。
【※7】ケンシロウが倒した相手に放つ決めゼリフは、表現こそ変わったものの読み切り段階から使用されており、その「視覚的には生きているが身体は確実な死に向かっている」という極めて特殊な状態が北斗神拳の神秘性を高め、結果として武論尊の原作意欲をもかき立てることとなった。
──他人に任せるだけに、絵は自分の感性に合わせたくなりますよね。
うんうん。僕は原先生の絵が気に入ったし、それと同時に「この絵は変わるだろうな」って思ったんだよ、ストーリーをしっかり生かしていけば。
──変わる…と言いますと?
とても上手いんだけど、まだ若い新人でしょ? つまり底が見えてないわけよ、可能性という意味での。底が見えるようなマンガ家だったらこっちも面白くないから。いい作品っていうのは、どんどん絵が変わる。
──たしかに北斗は、どんどん絵が変わってますね。ケンシロウの足が鬼のように長い時期とか(※8)。
【※8】原作の中でケンシロウの足が最も長く描写されていた時期は、レイがラオウに闘いを挑み、敗北するあたり。ガル憎は「キャプテン翼の影響で原先生が足を長くしたはず」と語っているが、真偽は不明。やがて本人と対談することになるであろうその時期に、改めて確認してもらおう。
まあ、原先生は最初、俺が原作をやることを嫌がってたみたいだけど。
──あ~。その話ですね。正直、聞いていいかどうか迷ってました。
前にも話してるけどね、俺は『ドーベルマン刑事』以降は大きなヒットが無かったから、もっと確実な人が良かったんじゃないかなあ? もちろん、依頼段階でその話を聞いてたら僕も絶対に断ってたけど(笑)。
──ははははは。
でも、そしたらこれ(単行本を指差しながら)無かったんだよ。この部屋の棚もガラガラだっただろうな。
──つまり僕もここに座っていないということになりますね。それは困ります。 人生に関わる問題です。
でもまあ、それは昔話でね。別に仲が悪いとかじゃないんだよ。彼も若かったから、こだわりが強かった。
──そうなんです、若いんです。まさか22才の人が描いてたなんて、38才の自分に置き換えると想像できません。僕が22才の時なんてパチスロしか打ってませんでしたから(笑)。
公式親善大使として面識がありながらも相変わらず「雲の上」の存在である武論尊先生。我が生涯における至福の時…。次回へと続く。
次回は武論尊先生が語る「漢の死に様」をお届けします!
Interviewer ガル憎
フリーライター。1974年1月4日、広島県に生まれる。北斗の”第一世代”とも称される生粋の団塊ジュニアかつ原作の公式親善大使で、広島東洋カープファン。原哲夫らとの交流も深く、映画「真救世主伝説 北斗の拳 ZERO ケンシロウ伝」のエンドロールにも名を刻む。好きなキャラクターは、トキ。