北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

武論尊

武論尊

VOL01武論尊

──あれって、最初は特に意味が無かったんですか?

もう、完全なファッション。入れ墨やトレードマークみたいなもので。カッコイイから入れてくれって原作に書いてね。それを見ればケンシロウであることが分かるでしょ? 胸に七つの傷がある男と言えば、名前は出てこなくてもケンシロウなんだと。

──そこにシンという重要な人物が登場して、理由が解き明かされる。

ユリアを奪うためにシンがケンシロウの胸に傷をつける。あれを思いついた時「俺は天才か?」と思ったね。後付けのくせに完璧だぞって(笑)。

──どこかの天才と似たようなセリフですね。彼は贋作ですが(笑)。

でも、そういう瞬間が無いと話が進んでいかないからね。

──大人になってから、なぜシンは北斗七星の形に傷を付けたのかを考えたことがあったんです。ケンシロウが強くなることをシンは最初から感じていて、這い上がってこさせるために、あるいは北斗を背負っていく新たな伝承者のために、あえて北斗七星の形に傷をつけたんじゃないのかと。救世主の象徴として。

でも連載当時は小学生だから、シンは単純に悪い奴だと思っただろ?

──思いましたね。そういう意味で言えば、胸に七つの傷がある設定も僕が考えたシンの気持ちも、どちらも後付けということになります。

ははは。そうだな。でも、北斗は本当に後付けだらけなんだよ。言葉の響きとしては悪いけど、それは先を考えなかったんじゃなくて、考える余裕が無かったんだよ。週刊だから。

──読者としては「北斗の拳は1年は続けていいよ」とか言われてそうなイメージがあるけど違う。まるで高校野球みたいな感覚ですよね。

まさにそう。毎回が勝負で、なにひとつ手が抜けない。だから原先生が「この先はどうなるんですか?」って聞いてきても「俺も分かんないよ!」となるわけで。俺が考えないと話が進まないから、待つ立場の原先生は本当に苦労したと思うよ。でも逆に、先を見据えて伏線なんて張ってたらダメなんだよね。ネタバレするんだよ。

──テレビドラマの撮影もそんな感じですよね。その都度、1話分の脚本が渡される。たとえば誰が犯人なのか分からなくて全員が芝居を続けてるみたいな。先生が言われるネタバレっていうのは、犯人役と決まってたらどこかでそういう芝居が出るみたいなものですかね。

そういう感じかもしれないね。もうとにかく壮絶な日々だったから。

──シンの出現によって生まれた南斗聖拳。やがて強敵(とも)と呼ばれることになる漢たちの出番ですね。

北斗神拳は、どちらかと言うと剛拳というか、ナタで、力強く切るような拳じゃん。でも南斗聖拳っていうのは日本刀。華麗で艶やかなんだ。あとは軽さだね。身軽さという部分で鳥の名前を入れるようにした。

──レイなんですが、どこかで『ハイスクール!奇面組』の一堂零がモデルになってると聞いたことがあるんですが、本当ですか?

いやいや。それ、ぜんぜん違うよ!

──うわ。良かったです。なんかもっともらしく書いてあったんで。30年目の真実というと大げさになるかもしれませんが、真相が判明したので本当に良かったです。いずれにせよレイは重要キャラだし、物語のターニングポイントですよね?

俺の中でのターニングポイントはレイじゃなくてジャギなんだよな。

──え? そうなんですか?

レイがダメとかじゃなく、兄がいるという設定的な意味合いで。もしあそこでレイだけを押してたら、マミヤもいて、恋愛モノっていうかね、そういう方向になると思って。だからジャギが出てきた瞬間、話の展開が広がったよね。レイとも絡んだし。

──あ~。なるほど。レイは胸に七つの傷がある男を探していた。しかもそれはケンシロウの兄だった。

ジャギが兄弟じゃなくて、そこら辺にいる盗賊だったらダメだった。兄弟だから広がったんだよね。もっと言えば名前がケンシロウ(四郎)だから…。

──合計3人の兄がいると。

そう。そうなると「伝承者争い」という新しい展開が出てくる。ただ、ジャギは作ったけど残りの二人はまだ考えてない。だからシルエットだけで描いてくれと原先生に伝えた。

──ひとりはデカい奴で、もうひとりはスマートな奴。とりあえず、それだけ描いておいてくれと。

読む人にしたらね、シルエットだけなんていい加減だなあとか思うかもしれないんだろうけど、いいストーリーってそんなもんなんだよ、意外と。

──実際にいいストーリーの北斗を作られた先生がそう言われるなら間違いないですね。結局、どこまで情熱を注ぐかですもんね。