この作品が時代を変えるぞという感覚は、
北斗にはありましたよ。
──ちなみに、当時の少年誌としては異例のタッチでもあり、過激な描写だったわけですが、そのあたりの反響はどうだったんですか?
北斗を載せる時はね、結構、怖かったんですよ。ようするに、少年誌に対してPTAとか学校、それこそ警察関係もそうなんだけど、暴力性や暴力描写を強調するのは良くないという風潮がありましたからね。
──なるほど~。当時もそういうのがあったんですね。
ええ。ただ僕はね、ここまで飛躍した発想と圧倒的な画力になるとそういう声は出ないんじゃないかと。
──言い方は悪いですが、やり玉にあげるレベルを超えていると。
そうそう。たしかに載せる怖さはありました。でも、作品が持つパワーは明確に感じていたので。
──第1話とか、人の頭が爆発するというところのインパクトが入り口になったのは事実ですが、僕は北斗の拳がバイオレンス作品だという解釈はしていません。
そうなんですよ。まずは世紀末という架空の舞台だし、物語を読めば分かってもらえるだろうと。この作品は決して暴力を肯定しているわけではない。読めば文句は出ないんじゃないかという。
──僕もそう思います。北斗ファンが語り合う時って「あの死に方はヤバかったよな!」みたいな話にならないんですよね。誰かの死に様に泣いたとか、あの生き様に感動したとか憧れるとか。だから大人になっても読めるんだと思います。
あとはね、原さんの画期的な絵と武論尊さんの画期的な舞台設定やストーリー。紛れもなく、やる価値のある作品だったんですよ。この作品は時代を変えるぞという感覚が北斗の拳にはありましたよ。
──なんか、西村さんの口からそういう言葉を聞くと涙が出そうです。
さっきの話と少し似てますが、その当時は、世間に少し女性志向みたいな流れがありましてね。
──女性志向…と言いますと?
集英社に入りたいといって来る男性たちがね、たとえば少女マンガの愛好家だったり、あるいは少女雑誌をやりたいという人が増えてて。僕の面接の採点では×をつけちゃいましたけどね。
──あははははははは!
その当時にね、白泉社がやってる少女マンガで、いい作品が結構あったんですよ。しっかりしたストーリーのものが。そういうものを目指していたんだと思うんですよね。
──少女マンガと言えば白泉社というイメージですよね。もちろんそれを否定すわけではなく、西村さんが見ている方向と違ったという。
そう。結果的には北斗の拳が始まったことによって、そういう人は集英社に来なくなりましたけど。
──あははははははは! 逆に男クサい連中が集まるように…。
週刊少年ジャンプの編集方針は「友情・努力・勝利」。そこからスタートした少年誌なんだけど、だんだん世の中が変わってきて、そういう考え方はもう古いだろうとか、編集部内でも「ダサいんじゃないか」みたいな空気が無きにしもあらずでね。
──そういう意味では、軌道修正するには持ってこいの作品。いいタイミングで始まってくれたと。
絵もストーリーも良かった。ジャンプのスタイル「友情・努力・勝利」を改めて定着させてくれましたよね。
──僕は改めて定着させただけに留まらず、日本マンガ界を変えたような感覚があるんです。まるでそれまでの流れが無きものだったかのような勢いで、北斗の影響を強く受けた作品が次々と出てきたので。
ただ、原さんの絵をマネして、それを凌駕していくのは非常に難しいと思うんですよね。そこに勝負を挑むのであれば、結局、キャラクターが立ってないといけないことになるし。