──ということは、原先生に会わなければ画風は変わっていたと?
やっぱり原先生の影響が、いちばんですね。僕の画風の原点ですよ。
──ちなみに、アシスタントの仕事というと、雑用とか、黒い部分を塗るベタとか、下書きを消す消しゴムかけとかですよね? いつごろから描かせてもらうように?
そう思いますよね!(人差し指を私の方に向けながら強い口調で)
──え…ええ。そう思います…が。
ところが原先生の場合は、いきなり1ページを渡されるんですよね。
──え? ええええええええっ!?
あれは…(と言いながら単行本をめくり始める)…これ。さっき言ったシーンの、このページ(※左画像参照)。
──え? え? このページをそのまま渡されたんですか? それってなんていうか…無茶ぶりもいいとこじゃないですか(笑)。
ええ(笑)。でも、当時はそんな感じ1ページ丸ごと渡されてたんです。
──各アシスタントにですか。ちなみにどれくらいで完成しました?
そのページは2日ぐらいかかった気がするんですけど、最初の1日はぜんぜん進まなくて。だんだん焦ってきて徹夜でやろうとしたら「寝ればいいじゃん」って先輩に言われて。拍子抜けしたんですけど、言われてみればそうだなと。〆切まで数日あったんです、その時点では。
──勝手が分からない中で、いきなり1ページ。普通は焦りますよね。
焦りましたね。ただ、とにかくやるしかないじゃないですか。そういう意味では自然と鍛えられました。
──トビラ絵のケンシロウのバックにある大きな満月(※7)。それを描いて褒められたという話をどこかで読んだことがありますが。

【※7】
昭和60年46号
はい。いまでも自分の机のデスクマットに挟んでます。あれは本当に嬉しかったです。信頼して貰っているんだなというのが伝わってきて。
──なんていうか、自分の成長の過程というか、そういうのを原先生から与えられる仕事で感じる的な。
そうですね。カラーの色を塗らせてもらうようになった時なんかは、自分がケンシロウの顔に色を塗ってもいいんだろうか…みたいな。
──あ~。なるほど。後ろにいるザコならまだしも、いよいよ主人公に手をつけるようになったぞと。アシスタントをやっていても、読者的な感覚があったということですね。
ありましたね。もう、めちゃめちゃ優越感がありました(笑)。
──ですよね。全国に数百万といる読者より先に読んでるというか。
描いてるというか(笑)。目の前で北斗の拳が仕上がっていくんで。
──大変なんだけど、やっぱり夢のような環境ですね。羨ましいです。