北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー

北斗の拳生誕30周年記念特別インタビュー北斗語り北斗語りとは

日本マンガ史にその名を刻む名作「北斗の拳」が2013年、連載開始「30周年」を迎える。
この記念すべき年を意義あるものにすべく、原作の公式親善大使が豪華ゲストを迎えて対談。
これまで語られてきた北斗、語られていない北斗。
北斗に魅せられし者たちが届ける大型新連載、愛深きゆえに行われる。

名越康文

名越康文

VOL05名越康文

──奥深さですよね。それが無いと30年も読み続けられませんし、もっと言えば、30年も妄想や予想を続けられませんよね。僕が北斗を好きなのはそういう部分。なんていうか、終わらないんですよ。他にも大好きなマンガは山ほどありますが、終わらなさで言えば北斗が断トツです。

それ、すごく分かります。僕だってこうして語り合って、まだ少ししか時間は経っていないけど、どんどん話したいことが出てきますから。

──ははは。では、ジャギやシンのような具体的なキャラ、あるいはストーリー内で先生が思うところはありますか?

う~ん……。たとえば、拳王軍って意外と統制が取れていないところがありません? 手下がみんな威張ってるとかやりたい放題なイメージ。

──なるほど。たとえば拳王侵攻隊とか、やりたい放題ですね(※4)。拳王様の命令とか言って、本当はお前がそうしたいだけだろ? みたいな。

【※4】
とある村を占拠し拳王の支配下に置こうとした拳王侵攻隊は、拳王への忠誠を誓わせるため、民衆の身体に焼き印をつけようとした。断った者には燃えさかる炎で熱した鉄板で「死のダンス」を命じる非道ぶりを見せたが、そこに訪れたレイの怒りに触れて壊滅。村で捕らわれていたアイリやリンは無事に保護された。

ではなぜ、拳王軍の部下の質があんなに悪いかっていうと、それは『間違いなくラオウが天下を取るよ』っていう気の緩みだと思うんです。

──たしかに。助言したり援護したりする必要は、まず無いですよね。

そういう状況で、たとえば有名な戦国武将がなにをしたかというと、内部で争わせるか、外部に敵を作るかしかなんです。いま原先生が連載されている織田信長だと、明智光秀と豊臣秀吉、柴田勝家を互いに競わせたとかね。内敵か外敵を作って争わせて気を引き締める方法ですよね。でも北斗の拳は、メインストーリーしか語られてないから、ラオウが拳王軍に対してそういうことを実践していたか分からない。やってないかもしれないし、やっていたかもしれない。

──原作内で描かれてる強敵同士の闘いが、もしかしたらラオウの絵図によるものだったとか。

そういうことです。自らの覇権のために、もしかしたらジャギのようなことを裏でしていたかもしれない。

──サウザーに敗れたケンシロウを助けたのは、兄としての愛情でも無ければサウザーの謎を解き明かさせるためでもない。もしかするとラオウはトキ同様にサウザーの謎を知っていて、それに対しどう闘うかをケンシロウで実験してみたとか。

そうです。最後まで闘いを見守っていたように描かれているけど、別の目的があったかもしれませんよね。

──南斗最強の漢を葬った後、聖帝軍がどう動くかを見たかった。だから崖の上から見ていた説とか。

南斗最強の漢! そうだ。それで思い出しました。作品の中に北斗神拳と南斗聖拳があって、僕たちは当然、北斗神拳が強いと思ってるし、実際にそうですよね。でも作品内で一般人の知名度で言ったら北斗神拳が相当マイナーだったんじゃないかなと考えるんです。

──北斗神拳がマイナー。それは考えたこと無いですね。

北斗神拳は暗殺拳である上に、一子相伝じゃないですか。つまり、知る人ぞ知る拳法という考え方が最も妥当とは言えませんか?

──あ~。なるほど! 北斗神拳はひとつ、伝承者もひとり。でも南斗聖拳は108派があって、さらに言うと一子相伝なのは南斗鳳凰拳くらいだから、間違いなく108人以上の伝承者がいたんですもんね!

それ以外でも、新しく流派を作ろうとした奴も絶対にいたんですよ。

──それ、面白いです。もっと掘り下げて話しましょう!